美味しそうな猫
夫の実家にお邪魔した。九月に義母と夫と三人で義母の実家に帰省させて頂いた時に、義母が「M*1が、D*2が最近元気がないと言っていた」と漏らしていたのが気になったからだ。我が家から夫の実家までは電車で二十分もかからない。近すぎるのと、日頃の激務の疲れもあるのか、休日でも夫は実家に帰ろうとしない。Dは高齢で、Dと一番仲の良い義弟が「元気がない」と言っている……。会えなくなってからでは遅いと思い、「私がDを見たいから」という理由で半ば強引に連れて行ってもらったのだ。
Dは純血のアメリカンショートヘアーで、美しい顔立ちをしている。猫に関わりの少ない人は「猫なんてみんな同じ顔だろう」と思うかもしれないが、なかなかどうして一匹一匹ちゃんと猫相があるのである。私の祖母の家では雑種の猫を二匹飼っていたが、明らかに美醜の差があった。まぁ、人間と猫での美的感覚が共通かは分からないが。
Dは大人しい家猫である。たまに外に出たがるが、怖がって駐車場のところまでしか出られないらしい。奴はまず私の爪先の匂いを嗅ぐ。手を差し出すと指の先を嗅ぐ。しかし顔を突き出しても鼻は嗅がない。私の鼻が低すぎるせいだろうか? 外に出ないためかいわゆる「猫臭さ」は殆んどなく、不意の闖入者の私の愛撫を嫌がる様子もない。次に会ったとき忘れられないように十分間ほどメンチを切り合った。義母は少し呆れていた。
「猫は自分を人間だと思っているんじゃなくて、人間を猫だと思っているんじゃないかな?」と夫に言ったら、「絶対そうだ! 七味は頭がいい」と褒めてくれた。しかしこれは、
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におけるキョンの発言である。夫がハルヒを最後まで読んでいないのをいいことに知ったかぶってみたのである。へっへっへ……まんまと騙されおって……。
Dがあまりにも可愛かったので猫が飼いたくなった。猫は生き物である。上手く飼える自信がない。ので、夫の実家から我が家の最寄駅までの電車の中で、脳内エア猫を作り出した。電車を降りて夫に早速話してみる。駅から自宅まで、エア猫の名前を提案し続けた。「魚肉」「チキン南蛮」「ドルジ(朝青龍)」「骨」……。結局夫が許可を出したのは「ラザニア」だけであった。エア猫ラザニア。最初はロシアンブルーを想定していたが、Dと同じアメショも捨てがたい。何にせよエア猫なので、品種変え放題なのである。妄想は楽しい。それを共有してくれる人がいると、更に楽しい。