73式

妙齢専業主婦の雑記帳である。文章を書く練習のため、ほぼ毎日更新の予定。

アダルトチルドレンがアダルトチルドレンを産み育てる

 お父さんって損な役回りだと思う。

 一般的な「お父さん」は家族のために毎日必死で働いている。幸福な父親は家族に尊敬され、愛される。不運な父親は、家族に疎まれる。私の父は後者だ。

 下の記事で(笑)などとネタにしてはいるが、父に抱く思いはなかなか複雑だ。私の一番古い記憶は、泣いている私に「うるせぇ!!!!」と怒鳴った父に対抗して「ギャーーーーッ!!」と更に大声で泣き喚き、それに対し父がまたしても大声を張り上げるという不毛なバトルである。恐らく一歳と二歳の間くらいであろう。

 彼は激情型である。気に食わないことがあるとすぐに家族に因縁をつけて憂さ晴らしをする。私の両親は共働きで、家事の一切を母が仕切り、たまに子どもたちが手伝いをしていた。父は帰ってくるとすぐに寝転がってトイレ以外は全く移動しない。煙草を吸うのに灰皿を持ってこい、と子どもに頼む。換気扇を回せ、と子どもに頼む。食事の配膳が始まると、まだ母が味噌汁を注いでいるのにメインのおかずを好きなだけ食べてしまうし、お菓子は子どもの分も奪う。欲望に忠実な男である。

 彼が家庭内で起こした事件はとても一記事にはまとめられないので、今回は一つだけ紹介しておこう。ある台風の日のことだった。外は強風と豪雨に見舞われ、誰だって家から一歩も出たくない休日だった。父の煙草が切れた。

「煙草なくなっちゃったなぁ~……」

「(外に出たくないので無視する子どもたち)」

「でも台風だし、外に出たくないなぁ~誰か買ってきてくれないかなぁ~」

「(聞こえないふりをする子どもたち)」

 何度かこのやりとり(?)を繰り返し、結局兄が折れてくれた。兄が出かけると、父は私と妹に対してブチギレた。

「おまえらが行かないからお兄ちゃんが行くハメになったんだ!!!!」

 はぁ~~~~~!? 何だその理屈はぁ~~~~~~!?!? そもそも台風の日に小学生の子どもに煙草買いに行かせるかぁ~~~~~~!?!? 兄でさえ小学生だったはずなので、私と妹は小一か小二。外はもうひどい天気なのである。そんなに吸いたきゃ自分で買いに行けよ!! と強烈に思ったが、年齢一桁の貧困な語彙力ではまともに反論も出来ず、ただひたすらに頭を垂れて妹と共に罵声を浴び続けた。まぁ反論したところで「親に口答えするんじゃねぇ!!」と新たな地雷を踏むはめになるのだが。

 成長し、私は父を「スルー」することを覚えた。私の何かが父の逆鱗に触れ、父が怒鳴り散らす。私は「ごめんなさい」と言いながら「あぁ~また何か言ってんなぁ~うっせぇなぁ~明日本屋行こ~テニプリの新刊売ってるかなぁ~」などと全く別のことを考えていた。無駄に演技力があったようで、一度も「ちゃんと聞いてんのか!!」と言われたことはない。

 妹は正面からぶつかっていったのでもう悲惨だった。恐らく「親が子どもに言ってはいけない一言ランキング」で上位にランクインするであろう「誰の金で生きていると思ってんだ!!」という言葉攻めまでしていた。「そんなに俺が気に食わないなら出てけ!!」と妹が玄関から放り出された映像は未だに目蓋の裏に焼き付いている。

 父のおかげで男性の怒鳴り声や大きな声が無条件で苦手である。「怒鳴り声大好き❤ときめいちゃう❤」なんて人は少数派だと思うので、一般の苦手の十倍くらいは苦手と感じ取ってほしい。自分に関係ない怒鳴り声でさえ思考停止に陥り、動けなくなる。時には涙さえ出てしまうのだ。妹も同じだと言っていた。

 恐ろしいことに、妹は実家にいた頃の記憶があまりないそうである。「私、嫌なことは忘れちゃうからさ~」と笑っているが、記憶を失くすって結構というかかなりヤバいのではないだろうか……。ただ、正面からぶつかった分、彼女の中ではわだかまりは解けつつあるそうだ。

 何を怒鳴られても「はいすみませんはいごめんなさいはい気をつけます」でほとんどをスルーしてきた私は、今でも父に対して心を開ききれない。「あ~何か喋ってるわ~」普通の会話でさえそうなのである。父は私のことを聞き上手で逆らわない、兄妹の中で自分と一番気の合う娘と思っているようだが、実際娘は何も聞いていないので逆らう必要がなかっただけだ。ただ「怒鳴られた」という不満ばかりが解消されることなく蓄積されていく。

 父の怒りが尤もであったことも少なくないと思う。あまりにも「理不尽ギレ」が多いので、その正当性は失われてしまっていた。どの職場でも人間関係にトラブルを起こし、転職を繰り返していたが、確かに父は私たちの生活のために働き続けてくれた。私は父の金で育った。父の金で学校を出た。その点は感謝している。でも、その見返りに「おまえたちのせいで俺はこんなに苦しんでいる」とストレス解消に使われる謂れはないと思うのである。

 私は東京で結婚し、東京に居を構えた。離婚でもされなければ(恐怖)地元に戻って生活することは二度とないだろう。実家には兄がいてくれる。将来介護が必要になったら兄に全てを押し付けざるを得ないので、金銭的補助を考えている。もし東京に来たいなどと言い出したらどうしよう? 母ならいいが父は嫌だ。私はこんなにも薄情である。お父さんって、損な役回りだと思う。