変態というイメージ(二)
一晩置いたら何を書こうとしていたのか見失ってしまった。生後二六年だが生まれつきの鳥頭には未だに慣れない。
ファッションの話だった。
美容師の殆んどがファッションに造詣が深いと思って良い。「人間の髪の毛を触るのが好きで美容師になりました」という人はなかなかいないだろう。いたら結構気持ち悪い。面白いけど。大体が洋服が好きで、その延長でファッション全体として髪型に意識がいくのだろう。
先日、とある美容室に行ってカット、カラー、トリートメントをしてもらった。特に指名しなかったので、初めての美容師に当たった。美容師との会話を苦痛とする人は多いが、私はそうでもない。むしろ一期一会で適当なことをベラベラ喋れるので楽しい。喋りたくないときは口を噤んでいればいいのだし。その日は、喋りたい気分だった。
「俺、今、十万のコート買おうか迷ってんだよ」
最初は敬語だった美容師だが、序盤で既にタメ口になっていた。男性には、こういう扱いをされることが多い七味である。
特にブランドに拘りはなく、たまたま欲しいコートが十万するのだという。この人は洋服が好きなんだなぁ、と思い、私は知人の個性的ファッショナブルおじさんの話をふった。
個性的ファッショナブルおじさん(以後、Nさん)は五十代男性である。パンクロックをこよなく愛し、ヒステリックグラマーやヴィヴィアンの女性ものの洋服を着こなす。ガーターベルトに網タイツ、ピンヒールの靴を履いたNさんは「愛犬のチワワの方が歩くのが早い」と言っていた。面白い人である。
Nさんは自分のファッションに強烈な拘りを持っている。音楽好きで、音大の講師をしている。UKロックが大好きな彼は、「洋服」という魂を着ている。彼には「ゲイとよく勘違いされますが、私はゲイっぽいだけでゲイではありません」「今日も町中の色んな人に振り返ってもらいました^^」などの名言がある。講義を受けたことはないが、シラバスを見る限りかなり楽しそうな内容だ。彼は学生たちに愛されていた。
「うわっ、何そいつ、変態じゃん!」
ガーターベルトに網タイツを履いてる知人がいる、と言った時点で美容師の彼はこう言った。
ジェネレーションギャップ等から「最近の若者は露出しすぎ」と文句を言うおばちゃんは別に良い。でも、オイおまえ、ファッションが好きじゃなかったのか? 自分が理解出来ないものはみんな変態か? 私は洋服を単なる布としか見ていないが、ああいう派手なおじさんは初見はびっくりしても「面白い人だなぁ」と思うぞ。
ファッションが大好きで美容師になった! という人が他人のファッションを否定している様が、何となく残念だった。という話を書きたかったのだった(そして書き終わった)。