73式

妙齢専業主婦の雑記帳である。文章を書く練習のため、ほぼ毎日更新の予定。

せいめい

 名前はそれこそ命そのものだと思う。

 私の名前は変だ。俗にいうキラキラネームとは違う。どちらかというと夜露四苦ネーム。更に言えばちょっと修行を積めば簡単に後光が差してくるような金ぴかな名前だ。身も蓋もない言い方をすれば、かなり宗教臭い。

 母方の孫たちは全員、祖母がお寺(たぶん)にお金を払い、名付けてもらった。従姉妹が三人、私たち兄妹が三人。みんな一風変わった名前だが、その中で私だけが突出しておかしい字面をしている。

 名前のことがずっとコンプレックスだった。小さい頃は「変な名前」とからかわれ、学校では一番最初の出席確認のときに「珍しいね、由来は?」と私のところでいちいち止められる。同姓同名なんて願っても現れないので、「変な名前のやつがいる」と知らない人にまで顔を覚えられている。

 小学生のとき、自分の名前の由来を調べてきましょう、という宿題が出た。名前の由来を事細かに書いた紙が存在したようだが、呆れたことに両親はそれを失くしてしまっていた。意味深な割に意味不明な名前に、私は完全にアイデンティティを見失いつつあった。

 結婚した相手の苗字がまた変わっていたので、一度のやりとりで多いときは四回も姓名を確認されるようになってしまった。これは例だが、

  1. 「えっと……アンドウさん?」「ヤスフジです」(安藤)
  2. 「へー! 珍しいですね! 下の名前は……ケイコさん?」「メグコです」(恵子)
  3. 「え? メイコ?」「メ グ コ です」
  4. 「へぇ~~~ほんっと珍しいですねぇ~~~~」

 最近はもうめんどくさいのでいちいち訂正せずに、一期一会の相手の前ではアンドウケイコとして生きている。

 しかしこの名前、気のせいかもしれないがどうも縁起がいいようなのだ。

 女性は結婚して苗字が変わることが多いので、姓名判断に正解はないと言われるらしい。しかし私の場合、「誰と結婚してもどんな苗字になろうとも絶対に運が変わらないパーフェクトな名前」らしいのだ。いや、これはかなり話を盛っている。希望的観測だ。いや、でも、そのくらい思わせてくれ。無意味に神々しいのはキルラキルの皐月様だけで良いではないか。

 妹が一時期占いにハマり、勝手に占い師に私の名前を見せたという。

「この名前は良すぎる」

 二~三人の占い師に言われたそうだ。ていうか占いに通いすぎではないか、妹よ……。私一回も行ったことないんだけど……。

 確かにこの人生、何となく運が良い気がする。何となくヤバくなりそうなときは大体何かに助けられる。名前が珍しいせいでいろんな人に一発で覚えてもらえて便利なところもある。

 最近になって、父親が不意に名前の由来のほんの一端を思い出してくれた。「文学の道に進むように」との意味があったらしい。進めるもんなら進みたいが、名前だけでは進めない。努力に裏打ちされた実力を育て、一定のところまでいかなければ土俵に立つことすら許されない。

 毎日ちょっとずつ、出来ることを増やしていきたいなぁ。