偏食
三人兄妹の真ん中である。
一般に中間子は上と下に比べて損をすることが多いと言われている。私もそうだったはずだ。昔は「そうだった」と断言出来ていたのだが、最近曖昧になってきた。時が経つにつれて「優遇されたこと」の記憶が消えていって、「不公平な思いをしたこと」ばかりがずしんと未だに残っている感じがする。
簡単に言えば、兄は「お兄ちゃんだから」と優遇されていた。妹は「一番年下だから」と甘やかされていた。私は宙ぶらりんだった。私のアルバムに残った写真は家族の中で誰よりも少ない。そのせいだろうか、私は両親というか、家族全体に対してかなり薄情な方だと思う。
父とのアレコレは以前書いたので、今回は母との話。小さい頃にすごく傷ついた話。
当時「なかよし」を買うために、私は毎月五百円のお小遣いをもらっていた。発売日に買いに行こうと財布の中を見たら、昨日もらったばかりの五百円玉がなくなっていた。
一つ下の妹が友達の誕生日プレゼントを買うために、無断で拝借したと白状した。
「そんなところに財布を置いておく方が悪い」
母は妹をかばった。
後に新たにお金をもらったかどうかは覚えていない。「母は私より妹の方が可愛いんだ」というショックだけが心を支配した。
夕食は常に兄の好物が並ぶ。妹は野菜が嫌いで、いつも残していた。私だけは好き嫌いが許されなかった。
「もったいないから、全部食べなさい」
頑張って食べた。兄は運動部で、妹は偏食と小食のせいでいつもスラリとしていた。私だけが標準体型だった。
「七味ちゃんはそうでもないけど、妹ちゃんはスタイルが良くて可愛いね」
これは母方の祖母の言だ。祖母は自宅に妹の写真ばかりを飾っていた。
進学のために上京し、私は一人暮らしを始めた。嫌いなものを食べずに済むようになった。昔は食べられたのに口に出来るものが少しずつ減っていった。食事自体が面倒になった。そのうち私は殆んど何も食べられなくなっていた。
摂食障害には母親との関係が深く関わっているとされることが多い。
私の現在の身長は百六十センチ、体重四十キロ前後である。
認めよう。完全なる摂食障害だ。そのことは、主治医と夫しか知らない。