73式

妙齢専業主婦の雑記帳である。文章を書く練習のため、ほぼ毎日更新の予定。

適職:自宅警備員

 インターネットで無料で出来る「適職診断」をやってみると、九割の確率で「芸術家、音楽家、俳優」という結果が出て来る。

 これは「あなたには芸術的な才能がありますよ」という意味ではない。正しくは「おまえに一般社会に出られては迷惑なので引きこもって好きなことやってろ」である。

 たかがネットの無料自己診断じゃないか、と笑い飛ばしたいところだが、そうにもいかない事情がある。R-CAP診断という有料の自己分析・適職プログラムを御存知だろうか。就職活動を間近に控えた大学三年生の秋、私は学校でこの診断を受けた。結果、向いている職業の第一位は「俳優」であった。以降「イラストレーター」「デザイナー」「小説家」「ミュージシャン」といった浮世離れした項目が並び続ける。向いていない職業欄にずらりと並んだ「営業」の文字が説得力と悲しみを増幅させる。金を払って悪口を言われた気分であった。まぁ実際営業なんて絶対やりたくなかったのだが*1

 出不精である。うるさい場所が苦手だ。人が多いところもダメ。乗り物酔いもひどい。虚弱。会社の人と私生活で関わるなんてありえない。責任のある立場になんて立ちたくない。声が小さく喋り方がゆっくりしている*2。日常に変化を求めない。お金よりも休みが欲しい。以上を隠そうとも改善しようともしない。そんな人間が会社員として四十年も働けるだろうか。

 これで私に芸術的素養が備わっていれば、自宅にいながらにして立派な社会人になれたのかもしれない。だが、私に備わっている才能は精々「模倣」だ。オリジナリティーというものがない。結局何が言いたいのかというと、無料だろうが有料だろうが、私の適職診断の結果は割と当たっていたということだ。

 今年の四月に新卒で入社した男性に「仕事辞めたい。この仕事向いてない」と相談された。正直「半年で向いているかどうかなんて分かるのか?」と最初は思った。その後「世の中に本当に向いている職業に就いている人はどのくらいいるのだろうか?」と疑問が沸いてきた。

 脚本家の三谷幸喜氏は、趣味の延長線上に仕事があるため、殆ど休暇を取らないという*3。友人K*4は、夜が明けきらぬうちから電車に乗って会社に向かう。仕事が生きがいだという彼女は輝いていた。この二人は「向いている」職業につけているのだと思う。そりゃあ仕事だから良いことばかりではない、むしろ辛いことの方が多いに決まっている。その辛いことを乗り越えるパワーを生み出すほど、彼らは仕事が好きなのである。

  1. 仕事大好き! 生きがいだよ!! 派
  2. 仕事はまぁ楽しいよ。もうちょっと趣味の時間も欲しいかもね~ 派
  3. 仕事は楽しいときもあるが、正直もう少し休みたい 派
  4. 生きていくために仕方なく仕事をしている 派
  5. 働かぬ! 働くくらいなら食わぬ!! 派*5

 もっとちゃんと考えれば色々あるのだろうが、パッと思いついたのはこの五パターンだ。私は迷うことなく五番目の人種である。実際、夫がキリストのごとく私に救いの手を差し伸べてくれなかったら、そのままのたれ死んでいた可能性も低くない。夫のために料理(のようなもの)はするが、自分のためだけにはしない。私の食事は全て夫のついでなのである。

 話がとっちらかってきたが、何も考えずにノリで書いているのでいつものことだ。

 私は結局相談してきた新卒男性の話を聞くことしか出来なかった。彼が今どのくらい辛いのかは彼の立場に立ってみないと分からないので、軽々しく「みんな辛いんだよ」「みんな辛くても頑張ってるんだよ」などとは言えない。そもそもかつて働いていたとはいえ、現在は「自宅警備員」という最高の適職に就いている私が何を言っても説得力を欠く。「仕事が嫌なのか、職場環境が嫌なのか、彼女と過ごす時間が少なくなるから嫌なのか、原因を分けて考えた方がいいよ」という当たり障りのない回答をして、私は今日も無責任に惰眠を貪るのだ。

*1:営業マンの方々、すみません……。

*2:これには色々理由があるのだが、改めて別記事に挙げたい。

*3:彼の場合「取れない」だけなのかもしれないが……。

*4:引っ張るが、「モー娘。を潰す会」のKである。

*5:封神演義」の太公望の台詞。