盗聴
ついつい他人の話を盗み聞きしてしまう。悪趣味なことは分かっている。しかし、これがめちゃくちゃ面白い。
待ち合わせに遅れるという連絡が友人から来たので、時間を潰すためにタリーズに入った。ソファが向かい合う二人席を陣取り、一人でぼけ~っと、恐らくラテか何かを飲んでいた。
ふと、隣の席の女性たちの会話が耳に飛び込んできた。
「ほら、私達って、普通の主婦じゃないじゃない?」
一体彼女たちは何者だったのだろうか。その後すぐに友達が「ごめんごめん」とやってきてしまったので、結局正体は分からず仕舞だった。
強烈に印象に残っているのは大学三年生の冬に遭遇した奥様達の会話だ。就職活動中の私は、面接前にドトール(たぶん)に入ってまたぼけ~っと何かを飲んでいた。
「うちの息子がさ、ラブレターもらってきたの。でも小五よ? 小五で恋愛なんか分かんないわよね」
「向こうの子もとりあえず恋愛ごっこがしたいだけで、相手なんか誰でもいいのよ」
「それにほら、あの子のお母さんて……ちょっと浮いてるじゃない? 私たちとは世代が違うからかもだけど」
「子どもの恋愛なんて、大学生になったって親が干渉しなきゃダメよね。男の子にマトモな判断力なんかないんだから。私達がしっかり選んであげないと、変な女に引っかかっちゃう」
何とも恐ろしい会話だった……。名も知らぬ少年と未来の配偶者に幸あれ。
私たち夫婦には子どもがいない。今のところつくる予定もない。夫は「子どもがめちゃめちゃ欲しいっ!!」というタイプではないし、私は私で自分の胎内から新たな生命体を産み出し、立派に育て上げる自信が全くない。まだ見ぬ私から生まれた私ではない人格を持った彼(もしくは彼女)の存在が恐ろしい。
「子どもなんてほっときゃ育つわよ。不良になっちゃったりおかしくなっちゃったりしてもさ、一本スジが通ってりゃそれでいいじゃん」
義母談。良い義母に恵まれたものだ。
「ていうか、あんた子どもよりも先に自分の体のこと考えなさいよ。さっさと病気治して健康にならないと、妊娠もクソもないわよ」
はい……頑張ります……。